死を賭して愛弟子を迎えに戻った感動の実話『ヒマラヤ 地上8,000メートルの絆』ネタバレ感想

公開日:2018/11/06 更新日:2018/11/07

アジアで初めてヒマラヤ8,000メートル級高峰14座を登りきった伝説の登山家・オム・ホンギル氏が、エベレストを下山中に事故死した愛弟子・パク・ムテク氏の遺体を回収するまでの経緯を映画化した実話ベースのお話。

この実話は2005年、韓国のMBCでドキュメンタリードラマとして放送され、注目を集めた。ノンフィクションという生の素材を味わい済みの韓国人にとっては、「無理やり創り出した感動もの」といった手厳しい評価も少なくなかったようだが、人間ドラマの描き方としてはセーフの領域なんじゃないかなぁと思う。

2015/韓国 上映時間124分
監督:イ・ソクフン
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウ、チョン・ユミ ほか

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「仲間を置いていけない」ムテクを叱ったホンギル

後に実の兄弟のような間柄になるオム・ホンギルとパク・ムテクの出会いは、対立から始まった。登攀中に死亡したチームメイトを放って帰る訳にはいかないと、ムテクがホンギルに反発したからだ。

登攀中に身動きできなくなった者を助ける、ましてや、引きずって運ぶなどというのは自殺行為に近く、ホンギルの指示に誤りはないのだが、ムテクは、自分が運ぶから迷惑はかけない、と譲らない。

「一緒に来たから一緒に帰らないと。そうでしょう!」

ムテクの盟友であるペク・ジュンホのフォローもあってホンギルは折れるが、案の定、ムテクは力尽きてダウン。結果、ホンギルの看病を受けることになり、こっぴどく叱られる。

「お前らに山に登る資格はない」
「自分のわがままを通すためにチームを危険にさらした」
「二度と俺の前にツラを見せるな!!」

この出来事が事実なのか脚色なのかは定かでないが、ホンギルは後に、周囲の反対を押し切って『ヒューマン遠征隊(遺体の回収隊)』を結成したのだから、二人は似た者同士の人情家であることがわかる。

きかん坊でも憎めない奴、ムテク

「二度とツラを見せるな」と言われたムテクが、どのようにして成長し、またホンギルと絆を強めていくのか。前半はその様子を、韓国らしいユーモアを交えて描かれる。

事実上イジメなんだけど微笑ましくも見えるシゴキ、気の強さMAXの元カノ乱入、元カノの前では気丈でも男同士で酒が入るとオンオン泣く韓国男子。いかにも韓国らしいほんわか劇場である。

ホンギルが席を外した束の間にサムギョプサルを盗み食いするも、あっけなく見つかり、怒られると思いきや、「お前らもこっち来て食え!」というシーンなんて、言葉はキツくても性根は優しいという、テンプレートとも呼べる韓国人アジョシだ。

そういえば昔、魚住くんという友達が働いていた職場に「キレながら優しい上司がいて戸惑った」とよく話してくれた。その上司はいつも魚住くんを荒々しく呼びつけ、

「魚住っ!!」
「(ビクッ)はい!」
「先に飯行けや!俺は後でいいから!」
「は、ハイ!お先に頂きます!」

みたいなやり取りが日常茶飯事だったらしいのだが、ホンギルのツンデレ部分を観ながらそんなどうでもいいことを思い出してしまった。

二人の絆を確かにしたのは、カンチェンジュンガの登頂である。

シェルパ(たぶんアン・ドルジェ)ですら諦めるような過酷な天候のなか、先に降りろと命令したのに、なぜか付いてきたムテク。マジで帰れと激怒すると

「今さら帰れと言われたって、もう帰り道がわかりませんよ!」

なんて開き直る無鉄砲さ。しかしそんなムテクを観て和む自分がいる。

幸い天候は奇跡的に回復し、かろうじて登頂に成功する二人だが、実はこのとき、オム・ホンギル氏は幼い息子に遺言を残す(と言ってもブツブツ独り言を言う)ほど追い詰められていたらしく、だからこそ、そんな試練を共に乗り越えた愛弟子を信頼するようになった。

パク・ムテク氏が遭難したというニュースを聞いても「ムテクだけは死なない。私と一緒に幾度となく死線を越えてきたんだから」と、彼の帰還を信じて疑わなかったそうだ。

「待たせたな…」みたいなお約束の全員集合

「お葬式なのに死体がないなんて!」
「ホンギルさんが引退しなければ夫は死なずに済んだ…」

遺族に責められ、下を向くしかないホンギル。山頂近くで凍りついているムテクの生々しい遺体写真を見たときには、悲しさと悔しさで手が震えた。前半のほんわかモードがちゃぶ台返しにあったようなピリピリさ。

すでに引退し、大学で教壇に立っていたホンギルだったが、いてもたってもいられず、ムテクたちの遺体を回収するために立ち上がった。

勧誘されたメンバーは、はじめこそ参加に消極的だったが、結果的には家族や仕事を投げうって全員集結。居酒屋に集まるシーンは大昔のヒーローもののようなタイミングで、その典型的な演出に「お前一人では行かせないぜ、キン肉マン」という正義超人たちの声が脳内再生された。最近観た映画だと、『タクシー運転手 約束は海を越えて』もそうだったな。

ユーモラスな意図はないだろうがちょっと笑ってしまった。

「夫はそこにいたいみたい…」ファインプレーのスヨン

ヒューマン遠征隊には参加していないが、途中のベースキャンプまで勝手に付いてきた者がいた。ムテクの妻・スヨンだ。「危険な場所なのになぜ来た!帰れ!」と怒るホンギルだったが、

「今さら帰れと言われたって、もう帰り道がわかりませんよ!」

と返すスヨン。その姿にムテクを重ねたホンギルは、スヨンがそこにいることを認めてしまう。もしかしたら、ムテクと似ているスヨンがいてくれて嬉しかったのかもしれない。

8,000メートル付近、肉体が毎秒死に向かっていく「デスゾーン」と呼ばれる地帯で、ムテクやジュンホたちは眠っていた。

「どうしてこんなところに寝ているんだ!」
「家族が待ってるぞ」
「一緒に帰らないと!」

ひとしきり感情をぶつけた後、遺体を引きずって回収しようとするも、不安定な天候、悪い足場、もはやズタボロの体調……どうしても諦めざるを得なかった。

もう無理だという周囲の説得に聞く耳を持たないホンギルは、物語冒頭のムテクのようだったが、さすがに限界が見えた。

そこでスヨンが小見出しの言葉を無線で伝える。

「ホンギル隊長、夫はどうやら、エベレストでジュンホさんたちと一緒にいたいみたいです!」
「だから無理をせず、降りてきてください…!」

「すまない…!」とホンギルは遺体の回収を諦め、自分や、参加してくれた遠征隊に感謝し、山を降りる決意をした。

スヨンがベースキャンプで待機し、このような発言をしたかは創作だと思うが、物語への関わりが薄かったスヨンをこのように絡ませたのは好みの展開。ホンギルは、ムテクの最愛の人であり、愛弟子の面影を背負うスヨンだからこそ、素直に受け入れたのだと解釈したい。

さいごに

映画では、そのまま諦めた、みたいな描写になっていた気がするが、パク・ムテク氏の遺体は、ホンギル氏の指示で比較的おだやかなところに安置されたそう。

帰りは奇跡的に天候が回復したそうで、それはムテク氏が平安に眠り、ありがとうと言って送ってくれているようだった、と語っている。

参考:http://www.goodnewscorps.jp/08new/About/pdf/umhonggil.pdf

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コウカ(kouka)
ライター、カメライター、漫画原作者。写真と落書き漫画を交えて文章を書くのが好き。瞬発力だけで生きている。

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