著名人をはじめ、観た人のほぼ全員が絶賛している話題の作品。既に各賞を受賞していますが、おそらく2018年の邦画でNo.1の評価を受けるでしょう。
この作品ほど「とりあえず観て」という一言が似合う映画はない。
以下、多少ネタバレを含むので、これから観ようと考えている人はここで直ちに離脱してください。
西暦/日本
上映時間96分
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、秋山ゆずき、他
製作:ENBUゼミナール
とある自主映画の撮影隊が山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影していた。本物を求める監督は中々OKを出さずテイクは42テイクに達する。そんな中、撮影隊に 本物のゾンビが襲いかかる!大喜びで撮影を続ける監督、次々とゾンビ化していく撮影隊の面々。 ”37分ワンシーン・ワンカットで描くノンストップ・ゾンビサバイバル!”……を撮ったヤツらの話。
「なんじゃこれ?」という違和感をテンポよく回収してくれる
物語前半の、37分のワンシーン・ワンカットで描かれるゾンビ映画パートがとにかく違和感の連続です。「なんじゃこの間は?」とか、「この役者のこの演出、ここで要る?」とか。
最も印象に残ったのは、冒頭中の冒頭、監督役の主人公・日暮隆之(濱津隆之)による主演たちへの罵倒でした。「お前の人生が薄っぺらいからそんな演技になるんだよ!」「リハのときからいちいち口出ししやがってこの野郎!」など、なんか演技とは離れた個人的な怒りをぶつけているようで妙に引っかかるんです。
メイク役の日暮晴美(しゅはまはるみ)もそうですね。恐怖に触れると極端なくらい演技が変わってウォーキング・デッドのキャロル以上に凶暴になり、「んー、極限状態なのはわかるけどメイクさんだけ暴走してないか?」みたいな。
そうそう、二日酔いで観たのもあって手持ちによるカメラ酔いに参ったのですが、必要以上にズームインとアウトを繰り返すカメラワークには怒りを覚えたほど。
数えきれないほどの違和感は巧妙に張り巡らされた伏線。それらはすべて、観客の予想を軽々と超えた笑いと感動をもってテンポよく回収してくれます。
役者陣は「ポンコツばかり集めた」らしいが全員売れてほしい
この作品を観て感動したポイントの一つが「無駄なキャラクターが一人もいない」こと。全員が輝いて見えるし、全員のことを好きになれます。
なぜだろう?と考えながらネットサーフィンしていると、舞台挨拶で上田慎一郎監督が語っている内容に答えがありました。
↑興味があれば観ていただきたいので貼っておきますけど(UP主さんに感謝)、演者の個性が自然な形で光るよう、上田監督が一人ひとりの性格を把握したうえで当て書きをしたそうなんですね。ですので、作中のキャラと実生活の役者さんの素顔には乖離がないらしいです(「それは語弊がある」と出演者から突っ込まれていますが)
役者の選考基準についてはこんなふうに語っています。
「とにかく人間的に不器用で、自分が好きやなと思える人を採りました」
「一般的に見たらポンコツだと思われるような人たちが、なんとか力を一つにして作品を作るという趣旨なので、本当にポンコツたちを集めました」
愛の脚本だった訳ですね。
ここまでになるには紆余曲折あったんでしょう。演者たちとの思い出を語る途中に感極まって涙で声をつまらせる上田監督。それにつられてもらい泣きする無名の役者たち。
作品のみならず個々の出演者のファンにもなってしまう、魅力に満ちた映画だと思います。
さいごに
ウェブライターのヨッピー氏がこんな感想を書いておられますが、完全に同意。
この映画、普通の人にはもちろんおすすめしたいんだけど、その中でも特に「クリエイター」的なお仕事をしている人にすすめたい。なんかもうやられた感もすごいし、「僕も頑張るぞー!」みたいな気持ちにさせてくれるのである。
https://fuminners.jp/journal/entertainment/14206/
時間がないとか予算がないとか素材がそろわないとか、いろんな言い訳をするのは簡単だけど、見てみろよこの人ら。すっげーやん!!!みたいな。
一点だけ残念だったのは、この映画をはなっから「面白い!」「笑える!」と脳内にインプットしてきたのか、さして笑いが仕掛けられていないシーンでもゲラゲラ笑う観客がいて集中力が削がれました。
あまりに残念だったので観賞直後にTwitterで愚痴るほど(同意してくれた人もちらほら)。
#カメラを止めるな 評判どおり面白かったのですが、「そこでそんな笑う?」みたいなバカップルが大声でゲラゲラうるさかったので集中できなかった。。 pic.twitter.com/AdK8FysccW
— カメライター・コウカ@漫画原作も(書籍発売!) (@kouka17) 2018年7月28日
感受性が豊かなのは素晴らしいけど、冒頭のワンカット映画場面でもう林家パー子祭りみたいなカップルがいたので、こいつらの末路はきっとバラエティ観賞を直接の原因とする笑い死になんだろうなぁとそこそこ真剣に妄想してしまった。
追記
2018年8月21日現在、この作品のパクリ疑惑がネットを賑わしています(ネタバレ注意)。
記事に書かれているとおり、元ネタがあったことは事実でしょう。なぜなら上田監督自身がインタビューで証言しているからです。
――本作大変面白く拝見いたしました! まずこの斬新なアイデアをどんな事から思いついたのかをお伺いしたいのですが。
上田監督:5年前に、劇団PEACE(2014年解散)の「GHOST IN THE BOX!」という舞台を観まして、物語の構造がすごく面白いなと思ったんです。この舞台を原案にして映画化したいと思い、最初はその舞台の脚本家や出演者の方と一緒に企画を進めていたんですがなかなか前に進まず一旦企画は頓挫。2年ほど前にとあるコンペに出すのをきっかけにまたこの企画を引っ張り出して、基本的な構造以外は登場人物も展開も丸ごと変えて、新たな作品としてプロットを固めていきました。その企画コンペには落ちたんですが、ちょうどその直後にこの「シネマプロジェクト」のお話をいただいたんです。「シネマプロジェクト」というのは新人の監督と俳優がワークショップを経て一本の映画を作るという企画です。
出典:爆ヒット中の映画『カメラを止めるな!』上田慎一郎監督インタビュー「映画が観た人の現実を前向きに動かしている。これほど嬉しいことはありません」/ガジェット通信
事後処理というか、挨拶がない等の話は、まあ原作者としては怒りを覚えるでしょうが、この件についてはブコメトップのこの意見に同意ですかね。
まぁこれは本当に原作があったんだろうけど オリンピックで金メダル取ったら急に親戚が増えたみたいな話
上手いこと言い過ぎ。
この原作者のnoteも公開されていますが(映画「カメラを止めるな!」について)、うーん、「原作」じゃなくて「原案」じゃないかなあ。