奥様は時計回りがお好き。映画『パラサイト 半地下の家族』のネタバレ感想

公開日:2020/01/23 更新日:2021/01/09

この映画を観た男性諸君なら、タイトルを読んだだけで思い出してくれただろう。ソファーベッドで寝ていた美人妻が、自分のおムネをコリコリやりだした夫の愛撫に感じつつも、「時計回りで…」と注文を出す、あの名シーンである。

興奮した夫は「좋아? 좋아?(いいか?)」と手○ンへとハッスルしていくのだが、自分が女性なら笑福亭鶴光師匠の「ええか~ええか~ええのんか~」みたいで覚めるな……等と心配になりながら、二人のまぐわいを見守っていた。

息を殺して潜んでいた半地下家族の3人の感想も聞いてみたいが、「頼むから早く終わってくれ」だろう。だから「時計回り」なのである。

ちなみに、奥様はこのときキメセクまでお求めになり、普段は上品ぶっていても性生活では下劣、変態のレッテルを貼ってクビにしたユン運転手と何ら変わらないことがわかる。

さて、タイトルを回収したところで本題のネタバレ感想に入るが、ちょっと前評判につられて期待しすぎてしまったかもしれない。面白くないとは言わないが、人に勧めたいかと問われればそうでもない、なんとも微妙な読後感の映画だったと先に述べておく。

2019/韓国
上映時間:124分
監督・脚本:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン チェ・ウシク、ほか

全員失業中で、その日暮らしの生活を送る貧しいキム一家。長男ギウは、ひょんなことからIT企業のCEOである超裕福なパク氏の家へ、家庭教師の面接を受けに行くことになる。そして、兄に続き、妹のギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…この相反する2つの家族の出会いは、誰も観たことのない想像を超える悲喜劇へと猛烈に加速していく――。

https://filmarks.com/movies/83796

速攻で裏切られたミニョク君の遠方からの怒り

半地下のボロ屋で内職をしながら糊口を凌ぐ主人公一家は、長男ギウの親友ミニョク君が、妙なデカイ石と優良アルバイトの話を持ってきたことで運命が変わった。

ギウはミニョク君から「信頼できる男」と見込まれて彼女候補のダヘ(パク社長の娘)を託されるが、ダヘに誘惑されると秒で手を出すゴミっぷりを見せてくれた。ダヘはダヘで、受験勉強漬けの日々に辟易しているのか、「大学生でいい感じのお兄さん」なら誰でもよかった感が漂う。エリート大学生で男気があり、性格も良さそうなミニョク君だが、人を見る目はゼロだったようだ。

彼の登場シーンはほんの一瞬で、留学を理由に音沙汰がなくなるのだが、プレゼントした「石」の形を借りてギウの心に居座ったように思える。あの石、韓国の歴史や文化史に明るいと解釈が違うのかもしれないが、ギウにとってはミニョクそのものなのだろう。ギウがミニョクに憧れていたのは明白だし、ギウはあの石をもらったおかげで半地下から地上へ昇ることができた。

豪雨による床下浸水でも石だけは手放さなかったのは、ギウが「ミニョクになれた自分」に執着したからである。しかし分不相応であることを理解し、家族を巻き込んだことを後悔した結果、「僕がこの石で責任を取る」と、地下にいる格下のパラサイト夫婦を殺しに行ったのだ。

少しとぼけて解釈すると、ギウがあの石で返り討ちにされたのは、ミニョク君の怒りかもしれない(笑)。

既視感あるコント感満載の前半部分

貧乏だけど個々のスキルは優れている半地下家族が、巧みなプランで金持ち家族に寄生していく。この過程を面白おかしく描いているのが前半部分。幸いにも前家政婦の不気味な来訪で雰囲気が一変するのだが、「まさかこの映画……まさかよな?!」と不安になるほど、既視感ありありのコメディタッチが続く。

あの既視感はなんだろう?と話合っているとき、友人から「三谷幸喜っぽいノリ」という感想が返ってきた。それだ。ポン・ジュノと三谷幸喜、監督としての格は全然違うけど、前半は三谷幸喜が作りそう。

少々白けたものの、金持ち家族の妻・ヨンギョのおかげで集中力が続いた。男が最も惹かれるポンコツ系美女で、特にセキュリティ感覚がザルすぎてハラハラする。こういう人がお婆ちゃんになったらオレオレ詐欺に引っかかるんだろうなぁと。

そんなキャラが冒頭で述べた「時計回り」発言をするものだから、ヨンギョ役のチョ・ヨジョンという女優さんをググってしまったら、1981年生まれと知ってびっくり。役どころの設定が何歳かは知らないが、女優の実年齢と変わらないなら、高校生の娘がいてもそこまで不思議ではない。

 
 
 
 
 
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조여정(@lightyears81)がシェアした投稿 – 2019年 6月月28日午後9時46分PDT

格差社会にモノ申す後半。決定打は「臭い」だけれど……

地下に夫をかくまう前家政婦が現れたことにより、主人公家族のヒエラルキーは一段昇格した。

こんな感じだろう。

IT社長金持ち家族 >>>>>>超えられない壁 >>>>>> 主人公パラサイト家族 > パク社長リスペクト!パラサイト夫婦

この階級は住まいの環境に置き換えるとよりわかりやすい。すなわち、高台に立つ豪邸-半地下にある不衛生なボロ屋-トイレとベッドしかない地下シェルター。

こんなふうに、作中では階級や貧富の高低差を如実に表す構図がよく使われ、貧しき者からしか見ることのできない世界を皮肉っている。

わかりやすいと思ったのは「大雨」だ。

貧しき者の世界では避難するレベルの自然災害も、高台に居を構えるブルジョア一家は気にも留めない。床下浸水のために止むなく外(体育館)で寝ざるをえなかった主人公たちとは対照的に、パク社長一家は、小さな息子が庭にわざわざテントを立てて眠れるくらい余裕だった。しかもその様子を屋内からセックスしながら見守るという高低差ぶり。

翌日、避難所から呼び出された半地下一家の父キテクは、ヨンギョの「昨日の大雨のおかげで今日は清々しい天気ね~」という発言にイラッとした。

そして、物語の決定打となった「臭(にお)い」

どんなに外見や経歴を偽っても、染み付いた臭いだけは偽れない。「貧困を抱えている人は高確率で歯が悪い」と、『闇金ウシジマくん』の作者である真鍋昌平氏が語っていたが、似たようなものだろう。

ここでパク社長のセリフを思い出してもらいたい。彼はキテクを「一線を越えてこない、賢い男」と評価していた。つまり彼は自分の領域に敏感な男なのである。キテクはそれを察知し、節度のある行動を取ったが、臭いまでコントロールすることはできなかった。臭いはパク社長が引いていた領域を越え、その不快感が妻との会話で包み隠さずに出た。

タクシードライバーとして職務をまっとうしていたキテクは、自信の評価が、結局「クサい」で片付けられたことに愕然としたのだろう。多くの人が経験済みだと思うが、本人では気づきにくいデリケートな部分なので、他人に指摘されると結構傷つく。信頼関係がある状態での配慮ある指摘ならまだしも、作中のような伝わり方だとダメージは役満並だ。そんな心境で災害級の大雨をコンボで食らったのだから、心身ともにボロボロだったはずである。

だから、パク社長が地下パラサイトのグンセの臭いを露骨に嫌がっているのを見て、「自分とグンセは同類扱い!」「結局こいつは俺たちを見下している!」などと取ったのだろう。

……うん、物語の筋を追えばわからんでもないのだが、だからといってパク社長をぶっ殺すのは納得がいかない。

いくらなんでもブチギレすぎでは? キテクは「プランなど立てるから絶望するんだ」と達観した持論を展開するシーンがあるが、その答えがこれ?? 「自然の流れに逆らわないマイペースの人生」と、「他人に配慮しない行き当たりばったりの人生」とでは次元が違うぞ。

さいごに

金持ち家族のうち、半地下家族の臭いをネガティブに取っていたのはパク社長だけだった。息子ダソンは気にしていないようだったし、娘のダヘはそれに対する言及すらない。妻ヨンギョは、言われて初めて気になったものの、床下浸水騒動の翌日だったし、仕方のない面もある。

そう考えると、パク社長は単に鼻が利きすぎる人説がある。だとしたらキャンプから帰った日、部屋中が酒臭いことに気づけよな。家具の下につまみやらが散乱したままなのに、よく興奮して時計回りの愛撫ができるなと。

結局そこに戻りました。すみません。

〈追記〉

取ったな〜、第92回アカデミー賞!!アジア映画として初の快挙。凄すぎる。韓国はお祝いムードに沸いてるみたい。まあ、自分の感想はやっぱりこれなんですけれども。。。

DVD出たら、もっかい見てみよう。

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コウカ(kouka)
ライター事務所「k-note」代表。カメライター、フォトライター、漫画原作者。写真と落書き漫画を交えて文章を書くのが好き。詳細プロフィールはこちら、仕事の実績確認・ご依頼はこちらからどうぞ。

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4件のコメント

  1. ヨンギョ役のチョ・ヨジョンという女優さんが夫とのソファでのラブシーンで「時計回りの、、」と言った意味を知りたくてググってたらこちらに辿り着きました。
    本映画は評論家や一部の映画好きから高い評価を得ているようですが、ワタシが観たときに感じた諸々の違和感を殆ど全て分かり易く書いていただいたので、すごくスッキリしました。ありがとうございますm(__)m

    1. 「時計回り」でたどりついてくださり、ありがとうございます(笑)。
      そして諸々共感いただいて嬉しいです。
      ラストは、韓国の恨(ハン)について知っているとわかるという声もありますが、だけど、、、ねえ?という感じですよね。

  2. 記事楽しく拝見しました。
    貧乏父がパク社長を殺すシーンは納得だと思います。臭いの事も含め、自宅が洪水で埋もれている中、優雅にパーティに興じる金持ち達の茶番に付き合わされたり、極めつけは娘が刺されて死にそうな時に、気にも止めずたかが失神してるだけの息子のために大騒ぎする、そんな態度から、そこですら身分の格差(命の格差?)を突き付けられての行動ではないでしょうか。いくら親子だと知られてないと分かっていても、重傷の娘を前にしてる時に「何をしてるんだ、早くしろ!」は、それはカッときてしまうよなと同情します。完全に主人公側に感情移入していた視聴者としては正直スカッとしてしまいました笑
    全体の評価は同意見です。面白かったですがものすごく良作というほどではないかなと。

  3. >名無しさん
    コメントありがとうございます!!身分の格差、命の格差。なるほど。。
    名無しさんのご意見のほうが、多数派だと思います。この映画の評価のされ方を見ても。
    ただ自分としてはやっぱり・・・。怒りのストーリーは理解するけど、いきなり殺されるほどのことをしたのか、勢いにまかせた行動すぎではないのか、それが作品のラストなのか、みたいな・・・(汗)。
    全体の評価は、ご意見があってよかったです 笑

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