はまらないピースの謎を解く!自分史上ベスト5に入る映画『コクソン(哭声)』のネタバレ感想

公開日:2018/09/18 更新日:2021/10/22

この映画の解釈は、ナ・ホンジン監督自身が「観る人に委ねたい」と述べているので正解はない。「何度も観てもらいたくてややこしく作ったw」みたいな発言もしていることだし(アンタの企図どおり5回は観たわ)、観た人が混乱するのも無理はない。

しかし、たとえば「國村隼演じる日本人のよそ者はキリスト」など、彼が明らかにしている設定は結構ある。

それらをベースに、はまらないピースは想像で埋めるということで、自分なりの解釈を書きたいと思う。以下、激しくネタバレなので要注意。

2016/韓国
上映時間156分
監督・脚本:ナ・ホンジン
出演:クァクドウォン、ファンジョンミン、チョンウヒ、キムファニ、國村隼 ほか

日本人のよそ者は何をしにコクソンにやってきたのか?

この物語は、「韓国の田舎町に突然降り立ったキリストの話」である。結果、よそ者の日本人が悪いことをした描写は一つもないのに、住人たちは気味悪がり、村に起こる不幸な出来事の元凶だとこじつけて殺害してしまった。

ナ・ホンジン監督自らが信仰する神でさえ、立場や見方を変えれば悪に映るということだろう。

じゃあ、よそ者はコクソンで何をやっているのか? これは解釈で埋めるしかないが、住人を「最後の審判」にかけているのだろう。次世代に生かすに足りる者だけは救ってやる(蘇らせる)という構想で、キリスト教徒以外の人間からすれば単なる選民思想だが、本人は大真面目だ。

布教という”釣り”に食いついたのが、正気をなくして一家心中を起こした人々であり、ジョング(クァク・ドウォン)の娘・ヒョジンである。

ある朝ヒョジンが、嫌いなはずの魚をむしゃむしゃ食べるのは、キリストとの接触を意味している。魚がキリスト教のシンボルとされていることは、『聖☆おにいさん』の読者なら理解できるだろう。

ムミョンはコクソンの守り神的存在

これも監督が明言していることで、ムミョンは善であり、村の守護神である。

ムミョンがジョングたちに向かって石を投げるシーンから、その正体をマグダラのマリアと解釈する人もいるようだが、そうするとキリストである日本人と敵対している意味が通らない。

ここは単に、聖書のエピソードを味付けとして入れた、くらいの解釈がスッキリするのではないか。

”自分が統治する村に、まったく価値観の異なる特殊能力者が土足で踏み込んでき、好き勝手なことをやり始めた。だから住人に注意喚起したし、自らが出張って痛めつけてやったりもした”

これがムミョンの一連の行動なのだが、注意喚起のやり方がマズすぎたのと、痛めつけるならきちんとトドメさせよwと思うので、彼女に振り回されたジョングには同情する。これは後述する。

祈祷師イルグァンは敵か味方か

韓国なのに左側通行(ただし登場シーンだけ)、ふんどしを身につけている、よそ者の所有物(フィルムカメラや被害者の写真)を持っている等の描写から、ファン・ジョンミン演じるイルグァンが日本人と繋がっている可能性は高い。

いや高いどころか、神であるムミョンが「あいつらはグル」と断言しているので、悪魔側なのは間違いない。

ファン・ジョンミンの怪演が心に刻み込まれる日韓祈祷合戦では、イルグァンが攻撃するのに連動してよそ者がダメージを受けているようなカメラワークがあるが、よく見ると苦しんでいるのは娘のヒョジンであり、よそ者にダメージを与えているのはムミョンだということがわかる。

じゃあ、よそ者は何をしていたのかと言うと、一家心中事件を起こしたパク・チュンベを「審判の合格者」として復活させていたのだと思う。しかしムミョンが途中で邪魔をするものだから、パク・チュンべは出来損ないみたいなゾンビになって辺りを徘徊。結果、ジョングたちに襲いかかったのだと解釈する(よそ者が「しまった!アイツどこに行った?」みたいな描写もある)。

では、イルグァンは”よそ者への殺”の場を借りてヒョジンを殺そうとしていたのかというと、それも違うように思う。マッチポンプにも程があるし、他の住人からの依頼も受けているなか、そんな失態を演じてビジネス上得することは一つもないからだ。

最初からグルだったのではなく、よそ者の力に感服して寝返ったのかもしれないが……。

結局、このときのイルグァンの行動は何度観返しても理解できず、ナ・ホンジン監督が垂らし揺さぶる餌にまんまと首を振った感がある。

「餌を飲み込んだ」はキリスト復活のための養分という解釈

すべての元凶は日本人のよそ者にあると断定したジョングは、仲間を集めてよそ者を追い詰める。

このとき、悪であるはずのよそ者は被害者のような表情で涙を流すシーンがあるが、これは先述したとおり、彼はキリストなので己の正義を貫いているだけであり、この涙は「なぜ私がこんな目に…」なんだと思う。

結果、キリストは殺され、その気を察知した祈祷師イルグァンはこんなことを言う。

「愚かな奴。餌を飲み込んじまいやがった」

「食いついた」の先を行く「飲み込んだ」というのは、ジョングが計算通り動いてくれたということ。なんの? もちろんキリストが神として復活するためのストーリーのだ。

もっと突っ込んだ解釈をすれば、イルグァンはこの時を待っていた。大切な家族が正体不明の病にかかり、その元凶がよそ者の日本人とわかれば、いつか、誰かが暴走してよそ者を殺してくれるかもしれない。そうしてはじめて、自分のボスが神として蘇ることができるのだ。「養分乙」という気分だっただろう。

イルグァンがコクソンに戻った訳

養分の様子を見にやって来た小悪党イルグァンを、守護神ムミョンが追い払う。結界に足を踏み入れたイルグァンは、映画史上に名を残す吐瀉物を撒き散らし、自宅に逃げ帰るのであった。

お祓いをするイルグァンをあざ笑うかのごとく、黒いカラスの死体が投げ込まれる。黒いカラス? そう、これは日本人のよそ者を象徴するアイテムで、仲間のイルグァンを攻撃するはずがない。

ここの解釈は、「ほら、お前のボスなんて私の相手にならない」である。

察知したイルグァンは慌てて地元を脱出、ソウルへ向かうも、フロントガラスに無数の白い蛾が体当たりしてき、行く手を阻まれる。白はムミョンを表すカラー。つまりこれは、「この程度の”遣い”は私にもできる。心配するな」というよそ者のメッセージではなかろうか。

ムミョン「先に罪を犯したのはお前」の意味

そもそも、一連の事件の原因は幻覚性の毒キノコだと判明しており、それはパク・チュンベのゾンビにやられた助祭イサムが入院している部屋のテレビでも報道されていた。「もっかい言うから、思い出してね?」みたいな作り手の声が聞こえてきそうである。

にもかかわらず、ジョングはそれを受け入れず、「元凶はあの日本人野郎」と決めつけ、死に追いやった。すべてを看破していた神父が100点満点の助言をしていたように、よそ者が悪事を働いている証拠は一つもなく、何もかもが噂や妄想、夢なのである。

「なぜうちの娘が…」というジョングの問いに対するムミョンの答え、「お前が罪もない人間を悪だと決めつけ殺したから」はそういう意味なのだが、

日本人が悪だと吹聴してたの、お前じゃね?

この解釈としては、神が人間を試していた、で落ち着くことはできる。しかしムミョンのテストをパスできなかったジョングは、「鶏が三度鳴く前に戻ってはいけない」と言われているのに二度目で戻ってしまう。(※これも元ネタは聖書。イエスがペテロの裏切りを予言した「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」から)

「何を疑い、何を信じるか」で現実が異なる

チラシや予告編で宣伝されているとおり、この物語のテーマは「何を疑って何を信じるか」だ。それはラストシーンの、國村隼の”悪魔化”を筆頭に各シーンに散りばめられている。

あえて小さめのフリに着目すると、「ウリ健康食品」の店主の妻だ。

雷に打たれたが一命を取り留めた夫(村に毒キノコをばらまいた張本人っぽい)の妻が、「漢方薬を飲んでいたおかげで助かった」と喜ぶシーンを覚えているだろうか。

何をどう考えても漢方薬との相関性は低く、ジョングとその同僚も(は…はぁ)みたいなリアクションを取っていたが、妻にとってはそれが真実なのである。

悪魔側を象徴するアイテムとして使われているカメラの意図もそう解釈する。写真をやっている人間ならわかるが、写真は現実を忠実に映し出すものに思えて、実は撮影者側の意図でいかようにも変えることができる。

さいごに

というわけで、非常に面白い映画だった。キリスト教の知識を持つ人が見ればもっと深い解釈ができるのだと思う。「お前の解釈は間違っている」は受け付けないが「私はこう思う」なら大歓迎なので、よろしければコメントやリプください。

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コウカ(kouka)
ライター事務所「k-note」代表。カメライター、フォトライター、漫画原作者。写真と落書き漫画を交えて文章を書くのが好き。詳細プロフィールはこちら、仕事の実績確認・ご依頼はこちらからどうぞ。

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