という、清々しい二重否定をタイトルにしてみました。どうも、フリーライターのコウカ(@kouka17) です。
- 椎茸は嫌いだけれど、頑張れば食べられないこともない。
- 本音を言えば、辞めたくないという思いもなくはなかった。
- その問題については、彼にも非がないとは言えない。
これらはすべて「打ち消し+打ち消し」で要領を得ず、はっきりしない表現として「悪文」とされています。冗長な印象も与えますし、流し読みが前提とされているwebでは特に嫌われている構文です。
しかし、二重否定には二重否定の役割もあります。安直な使用は避けるべきだと思いますが、あるシチュエーションにおいては重要な効果を発揮する表現です。
否定×否定で肯定にならないとき
例に挙げた3つの例文は、次のように言い換えられます。
- 椎茸は嫌いだけれど、頑張れば食べられないこともない。→ 食べられる。
- 本音を言えば、辞めたくないという思いもなくはなかった。→ あった。
- その問題については、彼にも非がないとは言えない。→ ある。
どれも差し支えなく頭に入ってきますよね。書き手は、二重否定の部分に含みを持たせないのでしょうが、読み手からすると、上記のように伝えてくれたほうが分かりやすいです。
このように、シンプルに言い換えることでほとんどの二重否定は解決できるのですが、なかには曖昧な含みをもたせないと誤解を与えるシーンもあります。例えば、
- 1時間で5匹釣るのが目標? 3時間もらえたらできなくもない。
これは、3時間もあれば5匹は釣れると思うけど、達成できないかもしれない、自信がないと言いたいんですよね。「3時間もらえたらできる」とは言い換えられないケースです。どっち?と念押しされたら「念のため5時間くれない?」などと答えるかもしれません。
書き手(話し手)が迷っている、断定すると誤解を与える、そうしたニュアンスを重視したいときは二重否定が向いています。
相手の主張をやんわり否定するとき
二重否定は、コミュニケーションの衝突を避ける際にも役立ちます。例えば、
- 鈴木「AついてはBであるという結論が私の調査によって明らかになっている」
- 田中「先生のご主張は分からなくもありませんが、私は〜」
この場合、田中さんは鈴木さんの主張に賛同していませんが、真っ向から否定すると角が立つため、二重否定でクッションを置いています。
「先生のご主張も理解します。しかし私は〜」などと区切って自分の論を展開するより、二重否定を用いた流れで反論したほうがまろやかになるでしょう。この例は口語ですが、文章でも同じです。日本語らしい、空気を読んだ温度感を演出したいとき、二重否定がぴたりとはまります。
よくある誤解
次の文章は二重否定ではありません。
- ライターなのに誤字脱字が多い人も少なくない
「少ない」は状態を表しているだけで、否定の意味はありませんよね。したがって、後ろの「ない」と二重の打ち消しにはなりません。「少なくない」を二重否定にすると「少なくないともいえない」みたいな文章になります。
以前、ある編集者さんに指摘されたとき、「え?」となったのですが、「少なくない」を二重否定だと思っている方は割といるようです。
少なくない | ある内科医の独り言 – 楽天ブログhttps://plaza.rakuten.co.jp/doctorhs/diary/200501250000/
「少なくない」って否定の否定ですけど英語に同じ表現ってありますか?- 知恵袋https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11173158561
曖昧な表現ではあるので、言い換えたほうがいいとは思いますけどね。
レギュレーションに従おう
依頼を受けて文章を書くときは、依頼主からレギュレーションを頂けることがほとんどです。そこに「二重否定は禁止」と書いてあれば、ここで説明したケースに当てはまっていようと、使用は控えましょう。錦の御旗は国語的な正しさではなく、クライアントが規定する用字用語にあります。
もちろん、編集者の国語力が不足している、にもかかわらず妙な指摘が多すぎるなどの場合は、ガツンと言ってやってもいいです。そこの仕事はもう受けないという覚悟付きで(笑)。
最後に、書きながら突然思い出したことを締めに。
「結婚はしたくない派?」などの問いに対して、「う〜ん。いい人がいれば考えてみなくもないけど……」みたいな返しをしてくる人っていませんか? あれは100%したい派の人です。本音を言うのが恥ずかしいから、二重否定を使って曖昧にしているのです。真実は「したいけど恋人ができない」でしょう。
気持ちは分からなくもないですけどね(二重否定)。