もう随分前の話ですが、思い出したので書きます。
その日は遠方での取材で帰りが遅くなり、最寄り駅に着くと12時を回っていました。
このまま寝るのもなんかアレだし、酒でも買って軽く飲もうかなーっと思いコンビニに行くと、
見るからに真面目そうな青少年がこちらを見ています。年齢は…18歳くらいでしょうか。一瞬、(知り合いかな??)と思いましたが、やっぱり知らない子でした。
(ま、いいや)と目線をそらして店内へ。買物を済ませて外へ出ると、先ほどの少年が待ちぶせしているではありませんか。
そして、
「お前さっき俺のこと睨んでたろ?」
胸ぐらを捕まれました。
な・・・なんなのこの子は。やんちゃ系じゃないところが逆に怖すぎる。
周囲に人通りはなく、助けてくれそうな人もいないので、とりあえず話し合いを試みます。真面目そうな子だし、話せばきっと分かってくれるはずだ、と。
「睨んでないよ。知り合いかな?と思って確認はしたけど」
「それに、見てのとおりおっさんサラリーマンだから喧嘩なんて売らないよ」
心を込めて説明するも、少年は分かってくれず、胸ぐらを離してもくれず、
「お前なめてんな。ちょっと来い」
と、僕を店の裏の方に連れて行こうとしました。
・・・・・・・。
あー、これ許してくれそうにないパターンだなーと理解した僕は、仕方がないので
先手必勝をかますことにしました。
こう見えて実は、少林寺拳法2級、フルコンタクト空手3級、ボクシングジムただの練習生、テコンドー1日体験有りの超実力者なのです。まさか反撃されると思ってなかったのでしょう、少年は非常に驚き、「ちょちょちょ、ちょー!すいません!!」と素直に降参してきました。
————–戦いの後————-
僕「君なんなの?」
少年「……すいません。お酒に酔ってまして。むしゃくしゃして。弱そうだから勝てそうだなって」
少年は酒に酔ったテンションでおイタしてしまったようです。まあ、若ければそういうこともあるでしょう。大切なのは、二度と同じ過ちを繰り返さないこと。偉そうにならない程度にアドバイスし、その場を離れようとすると、
「あの」
「僕と」
「もう1度勝負してください」
…………は?
「僕、喧嘩とかあんまりしたことなくて」
「さっきは先に殴られて驚きましたが、今度は大丈夫だと思います!」
なにが大丈夫なんでしょう。。。
僕がいくら拒否しても少年は頑として勝負を挑んでくるので、近くの公園で再戦を受けてやることにしました。
公園で第2ラウンド
武術家同士ではなく少年とおっさんですが、とにかく第2ラウンドの幕が切って落とされようとしていました。
再戦を引き受けたものの、僕は適当にダメージを与えたところで逃げ出そうと考えていました。「コイツは深く関わると災いをもたらしてくる」と感じたからです。そう思い改めて少年を見つめ直すと、なんとも薄気味悪い奴に見えてくるではありませんか。
そんなことを考える僕をまっすぐな目で見つめ返す少年。そして次の瞬間、再び思いがけない要望が。
「あの」
「もし可能なら」
「顔へのパンチはナシにしませんか?」
「顔は痛いので」
は?
そんなストリートファイトがどこにあるんだよ…。しかし、「素手による顔面攻撃ナシ」は、極真空手をはじめ多くのフルコンタクト系空手が採用しているポピュラーな試合用ルールです。空手経験者の僕からすれば、(よりによって俺が慣れ親しんだルールを自ら……ぷぷぷw)という感じ。もちろん快く了承しました。
ところが少年、開始の合図とともに、作戦ナシのぐるぐるパンチで突っ込んでくるではありませんか!
↓イメージ
予想外の攻撃がキモかったので逃げる僕。
ぐるぐるパンチで追いかけてくる少年。
シュールな画で包まれる深夜の公園。
このままじゃいつかぐるぐるパンチの餌食になる!と思った僕は、体制を立て直し、不用意に突っ込んでくる少年をかわして左へ。そして、鎖骨打ち→左ボディフック→右ロー→右膝蹴りでダウンさせます。
少年は地面にへたり込み「参りましたぁ!!」とあっさり降参。本当に一体何なんだお前は。。。
拳を交えても芽生えない友情
やっと戦意を喪失してくれたところで話を聞いてみると、少年は現在浪人生(19)。大学受験のために地方からやって来たそうです。
将来の夢はなんと官僚。京都大学を目指して勉強付けの毎日を過ごしていたところ、ストレスが溜まり、慣れない土地で友達もロクにいないことから、酒を飲んで気を紛らわしていたといいます。ちょうどそのとき、僕と目が合ったと。
きちんと話を聞いてくれる僕に心を開いたのか、少年は、
「どこのジムに通ってるんですか?」
「電話番号教えてください」
「友達になってくれませんか?」
等とリアルに怖い距離の詰め方をしてきたのできっぱりと拒絶。これ以上長居してはキケンだと思い、「酒はほどほどにすること」「二度と喧嘩はしないこと」「近所で俺を見かけても声をかけないこと」の3つを言い聞かせてそそくさと公園を後にしました。
あのときの少年、無事に合格できたのでしょうか。
この出来事以来、知らない人とはできるだけ目を合わせないようにしているのは言うまでもありません。