【『1秒先の彼』ネタバレ】山下監督が出町座に来るというので見に行ったら

公開日:2023/10/14 更新日:2023/10/15

恋愛ものは好みではないのであまり見ませんが、あの山下敦弘監督が京都の出町座にやってくるというではありませんか。作品の上映後、アフタートークをするというのです。

南座 1秒先の彼 山下監督のイベント告知

山下監督は、『リンダ リンダ リンダ(2005年)』『天然コケコッコー(2007年)』『もらとりあむタマ子(2013年)』などで知られる名監督です。僕は『山田孝之の東京都北区赤羽(2015)』で大ファンになったんですよね。

そんなわけで山下監督目当てで見に行ったのですが、結果的には「山下監督に会えて良かった」ではなく、「山下監督に会えて、面白い映画も見られて良かった」という感想になりました。

以下、映画の感想を山下監督がアフタートークで語ってくださったエピソード(※)を交えてネタバレでレビューします。

※「ここだけの話ですけど」と前置きがあったエピソードは書きません。その場にいた人だけのお楽しみ(笑)。

1秒先の彼 パンフレット
2023/日本
上映時間:119分
監督:山下敦弘
脚本:宮藤官九郎
出演:岡田将生、清原果耶、荒川良々、羽野晶紀 ほか

郵便局の窓口で働くハジメは、何をするにもとにかくワンテンポ早い。いつも相手から告白されるのに、「イケメンなのになんか残念」と言われては必ずフラれてしまうのだ。ある日街中で路上ミュージシャン・桜子のまっすぐな歌声に惹かれ、たちまち恋に落ちるハジメ。必死のアプローチで花火大会デートの約束を取り付けるも、目覚めるとなぜか翌日に。“花火大会デート”が消えてしまった…⁉︎“消えた 1 日”の手がかりとなる…

https://filmarks.com/movies/103040

「京都」という土地と時間が不思議な物語を成立させる

原作『1秒先の彼女』は台湾が舞台(物語上は台北だがセットが建てられたのは新北)のため、同じ島である沖縄案もあったそうですが、本作は時間にまつわる不思議な物語です。「何か変なことが起こっても成立しそうなとこがいいよね」ということで、京都案が出たそう。

確かに京都は霊験あらたかなお寺や神社が多く、神々もいれば怨念もうずまく都市ですから、不可思議なストーリーと噛み合うかもしれません。しかし、「京都は許可とかがいろいろ大変だよ」と、上からは難色を示されたとか。

なお、生粋の京都人の僕にはよくわかりませんが、京都には「京都時間」とも呼べる独特のまったりとした時間が流れているそう。京都府はともかく(笑)、京都市は普通に「都市」なのでそんなことはないと思うのですが、これは若き日の山下監督が京都国際学生映画祭の手伝いなどで、よく京都の町家に寝泊まりしていた経験からきていると推測します。

ハジメみたいな京都人はいるのか?

ハジメ(岡田将生)が愛し焦がれる洛中を捨ててまでレイカ(清原果耶)のいる宮津市を選ぶのは、「約束を守る」という物語に欠かせない成長ポイントです。そういえば、ハジメの父(加藤雅也)もきちんと約束を守ってミョウガを買ってきましたね。

しかし、京都のことをよく知らない人からすれば、「ハジメみたいな京都人って本当にいるの?」と思うかもしれません。山下監督も、「やたらと洛中を主張するハジメのキャラって京都の方的にはどうなんだろう?」と仰っていました。

かくいう私もギリギリ洛中の生まれですから断言しましょう。京都市以外を「京都じゃない」という人はごまんといますが、洛中だけが京都だという人はまれです。

いるにはいるんです。たとえば御所の近くが実家の友達は、「俺は天皇のお膝元生まれ」と誇っていました。もちろん、失笑を買っていたのはいうまでもありません。

また、韓国・ソウル在住の友達が「うちは何代も昔からソウルに住んでいるれっきとした家系」と地方を見下す発言をしていたので、まれではありますが、ハジメみたいに偏った奴は世界中どこにでもいるのでしょう。まあ、ハジメは宇治市出身なのが憎めないところなのですが。

かわいいハジメとかっこいいレイカ

本作は原作の男女キャラを反転させています。最初は原作と同じ設定でいく予定だったそうですが(当初案ではヒロインにKさん、ヒーローにYさん)、プロデューサーに却下されて配役が煮詰まったとか。そこで男女反転案が出たとき、クドカンさんは「岡田将生君なら書けるかな」と答えたそうです。これは『映画.com』の取材記事でも書かれています。

『男女の役を入れ替えるというのはどうでしょう』と提案された時、自分でもなぜだか分からないのですが『ヒロインが岡田将生くんなら、それもアリですね』と答えました。岡田くんには不思議な“ヒロイン感”があると思ったのと、郵便局の窓口に岡田くんが不満げな顔で座っている様が容易に想像できたからです。

クドカン氏は、『ゆとりですが何か』で岡田将生さんのかわいさや3枚目キャラをよく理解していたのもあって、ハジメパートはスムーズに完成させたそう。

一方の清原果耶さんは、良い意味でクドカンさんの世界観のキャラではありません。脚本ではもう少し不思議っ子だったそうですが、清原さんが演じると妙に意志のある女性に仕上がったとか。ラストシーンでハジメの前に現れたレイカは、「戦争で亡くなったはずの夫が帰ってきたみたいに男前(笑)」とも語っておられました。作中を通してクールなレイカに対し、喜怒哀楽が素直なハジメはポロポロと泣いてしまう。かわいいハジメとかっこいいレイカをよく味わえるラストです。

ちなみに、原作では「時間停止している女の体を男が(いやらしい意味ではないとしても)ベタベタ触るのはいかがなものか」という批判が出たため、本作では極力控えたそう。そうした批判は映画上映中ではなく、配信になってから出た(大きくなった)というのが興味深いですが。

ファンタジーで成り立つ原作にロジックをつけた本作

原作は良い意味で説明不足であり、クローゼットに住むトカゲのおっさん?など、よくよく考えるとおかしな点がたくさんあります。それは本作でも同じく、「そこは追求しないで(笑)」とのことでしたが、レイカたちだけが時間停止した世界で動ける理由ははっきりと説明されています。

ちなみに、時間停止の映像はほとんどが役者の努力で、デジタル技術を使ったのは一部のシーンのみだとか。おかげで、父の述懐の一部始終をハジメが実は聞いてるかのような映像になっています。

また、レイカをなんとなくサポートするバス運転手役の荒川良々さんは素晴らしいですね。世界がおかしくなったらもっともっと騒ぎ立てるはずのに、どこか抜けているキャラも似合うし、乗客を大切にする人の良さも似合う。彼にしか醸し出せない雰囲気です。

撮影期間中、山下監督とよく二条の居酒屋で飲んでいたそうですが、どこのお店か教えてほしかった(笑)。

さいごに

ラジオのDJとカメラ屋のオヤジの2役を演じた故・笑福亭笑瓶さんは、残念ながら本来が遺作となってしまいました。当初は(ラジオから流れる)声だけの出演予定だったそうですが、カメラ屋のオヤジ役を依頼した某大物俳優さんがNGとなってしまい、急遽お願いすることになったのだとか。結果的には、動いている笑瓶さんを見られてよかったです。

さいごに、「伊根町から天橋立まで歩ける訳ないやろw」と思いましたが、「まあいいじゃん」ということで成立したとか。まあ、観光地を舞台にした作品あるあるですね。

本作を見て、十数年ぶりに天橋立に行きたくなりました。

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コウカ(kouka)
ライター事務所「k-note」代表。カメライター、フォトライター、漫画原作者。写真と落書き漫画を交えて文章を書くのが好き。詳細プロフィールはこちら、仕事の実績確認・ご依頼はこちらからどうぞ。

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