物語としては非常に浅いけど、やけに心に残る映画でした。
旧約聖書におけるアダムとイブの関係性を連想させるお話なのですが、三角関係の男女(女1-男2)にて、男、特におっさんがやってはいけないNG行動が散りばめられており、聖書とかどうでもよくなります。同じおっさんとして姿勢を正すようなシーンが幾度もありました。
以下、おっさんとはかくあるべきという教訓を挙げながら、物語のあらすじをネタバレで紹介します。
西暦/アメリカ
上映時間98分
監督:クレイグ・ゾベル
脚本:ニッサー・モディ 原作:ロバート・C・オブライエン
出演:マーゴット・ロビー、キウェテル・イジョフォー、クリス・パイン
戦争により死の灰に覆われた世界。アン・バーデンは放射能汚染を免れた小さな谷で愛犬とともに暮らしている。ある日、彼女は宇宙服のような防護服を着たジョンと遭遇する。ジョンは汚染された滝壺で水浴びをして体調を崩してしまうが、アンの救護によって一命を取り留める。2人は自然な流れで共同生活をスタートさせ、互いの距離を縮めていった。しかし、もう1人の生存者であるケイレブが2人の前に現れたことからその生活は一変していく。
教訓1.はしゃぐな
放射能によりほとんどの人間が息絶えた世界で、黒人のおっさんことジョン・ルーミスは、ようやく出会えた美しい滝を見るやいなや、防護服を脱ぎ捨て「yeahhhhhhhhhhhhh」 みたいなノリで行水に興じます。
ところがその滝も汚染されており、あっという間に被爆したおっさん、ちなみにこんな奴↓
は、吐瀉物を撒き散らしてパニック。持参した放射能測定器が反応を示すとさらに大パニック。てか滝見つけてはしゃぐ前にまずその機械で調べろや。
しかしこの愚行のおかげで、おっさんはアン・バーデンという若くて美しい白人女性に看病してもらい、幸運なことにひとつ屋根の下で暮らすことになります。毎日がワンダフルのわくわくイベント到来。危険地帯ではしゃいでみるのもいいですね。
教訓2.能力は習得しとけ
おっさんを助けたアンは、熱心なキリスト教者信で清く正しく、超がつくほど優しい女性です。おまけに根性も生活力も備えており、荒廃した世界で一人たくましく生きぬいていました。
が、やっぱり孤独でたまらなかったんですね。おっさんを看病できることが生きがいになり、深夜に不気味な音を立てられても、酒に酔って暴れられても健気につくします。そのうち、なんとおっさんに恋心を抱くようにもなります。
こう言うと、ジョンがなんにもないおっさんのような印象を与えてしまいますが、元は有能な科学者であり、アンにはできなかった機械の修理や水車の設計など、生活水準の底上げをはかる提案を実行に移してポイントを積み重ねていたのでした。
ジョンがただの具合悪いおっさんだったら、こうした進展はなかったはず。おっさんたるもの能力は磨いとけ。つまり仕事頑張れ。
教訓3.余裕をかますな
いよいよ気持ちを抑えきれなくなったアンは積極的なアタックを試みますが、おっさんは何を血迷ったかこれを拒絶。理由は、
「2人の関係性が突然変わるのが怖いんだ」
アンは優しいのでこんな形相になったりしませんが、まさかの肩透かしを食って落ち込んでしまいます。女優さんの演技が上手いせいもあって、おっさんに殺意すら覚えました。
おっさん、実はアンの弟を止むなく射殺してしまったことを物語の終盤で明らかにしており(アンが大切にしているアルバムを見て確信)、ここでアンを抱かなかったのは、彼女に対する後ろめたさが原因だと思われます。
もっとも、この後おっさんは「据え膳食わぬはなんとやら」という男の真理を噛みしめることになるんですけどね(※しかし勃起障害(ED)を抱えている説も)。
教訓4.悪いシナリオくらい想定しとけ
相変わらず自分に手を出してこないジョンに寂しさを募らせるアンでしたが、一応世界は大変なことになっているので、色恋ばかり考えているわけにはいきません。農作業や生きるためのインフラ整備など、やるべきことはたくさんあります。
それに、ジョンの言う通り焦る必要はないのです。だって生き残った人間はアンとジョンだけなのだから。
ところがどっこい。そんな二人の前に、ケイレブと名乗る、もう一人の生存者が姿を現します。
おっさん最大の誤算は、このケイレブが若くてイケメンであり、なおかつ白人だったこと。
ざわっときたおっさんは、ケイレブが被爆していること、信用ならないことを理由に自宅に招き入れないよう提案しますが、心から優しいアンに、
今度ばかりはこんな迫力で責められてしまいます。当然ですよね。眼の前にいるケイレブは、数週間前のジョンなのですから。ジョンを助けて、ケイレブは助けない選択はアンにはありません。
なお、おっさんとアンがアダムとイブだとすると、ケイレブは「蛇」です。旧約聖書において、蛇は誘惑を象徴する存在。ターゲットはもちろん、アンです。
教訓5.卑屈になるな自信もて
仕方なく3人で暮らすことになった結果、おっさんの不安は日々増大していきます。
「ケイレブの野郎、アンのことを狙ってるんじゃないのか?」
「アンはアンで、まんざらでもなさそうだ…」
な〜んて、片思い中にありがちな負のスパイラルに突入。おっさんの心中は「やっときゃ良かった」です絶対。
いやマジで、あのときアンの気持ちに応えていれば、たとえイケメンが現れたところでそう簡単に立場は揺らがなかったのに。『やれたかも委員会』の月 満子も同意してくれるはずです。
そんなこんなで、とうとう抑えきえれなくなったおっさんはアンを呼び出し、自分を惨めにさせない「俺は大丈夫だ作戦」を決行。つまり、
「君がケイレブに惹かれていても俺は大丈夫だ」
「俺のことは気にしないでくれ」
「君たち白人同士、仲良くやってくれればそれでいい」
これを聞いたアン、涙を流し落胆。
そうです。アンはイケメンが現れても心変わりなんてしなかったのです。
あなたは生きる希望を与えてくれた大切な人。ケイレブはまあ、カッコ良くて、同じキリスト教信者で、年齢も近くて話も合うけど、私のことをきちんと理解してくれているのはアナタよジョン。私はアナタが好きなのに・・・!がアンの気持ちです。
なので涙を流していますが心の底では
こんな感じでしょう。おっさんお前は何度私をガッカリさせるのか、と。
みっともないことこの上ないですが、少しおっさんの肩を持つと、ケイレブはアンとおっさんの前に姿を現す以前から彼女を付け狙っている描写があり、初っ端からおっさんを出し抜く気満々でした。アンは純粋にケイレブの健康を心配している一方で、ケイレブは(しめしめ)という心境だったのです。
おっさんがケイレブとの初対面で感じたざわつきは間違いではなかったんですね。にもかかわらず、アンがまんざらでもない態度を見せるから、結局白人がいいんかーーーい!となったんだと思います。
教訓6.飲みすぎんな
3人は電力を復活させるため、おっさん発案の水車を着工、見事完成させます。おっさん大活躍。で、その夜は水車設置の前日祝い。
ディナーを楽しみ、アルコールを楽しみ、ゲームやプールに興じる夜。至福の時間です。
そしておっさんはついにアンに告白。この夜、プールでアンとケイレブが2人同時に潜ってなかなか上がってこない、中で何やってた?みたいなプチ疑惑があり、焦ったからではないでしょうか。
おっさん「君を愛してる」
アン「…ほんとう?嬉しいわジョン!」
るんるん♪でそのままジョンの部屋に行くアン。あんな、マイナス500万点みたいな失言があっても気持ちが覚めないアンはマジ天使です。
ようやく!ようやく!2人が結ばれるはずでしたが、おっさんはまさかの飲み過ぎでダウン。
アンが揺さぶっても一向に起きる気配がなく、仕方なく部屋を出たアンの耳に入ってきたのは、イケメン・ケイレブさんがシャワーを浴びる音……。アンは吸い寄せられるようにバスルームのドアを叩いたのでした。
これまで数々の負け犬を見てきましたが、こんなに負けるべくして負けた男を見るのは久しぶりです。
ジョンがインポテンスなためタヌキ寝入りしていた可能性もありますが、だったら期待させんなよ。
教訓7.あっさい嘘をつくな
アンとケイレブが体を重ねた翌日、おっさんとケイレブは水車を設置しに滝壺へ。
おっさんの記憶は告白成功で止まっているので、
(アンは僕の愛を受け入れてくれた。ふふっケイレブめ。諦めてアン宅を去れ)
一方のケイレブは当初の狙いどおりで、
(やっぱりアンは僕になびいた。さて後はこいつをどうするか…)
互いを邪魔な存在に感じていた矢先、ケイレブが足を滑らせ滝壺へ転落しそうになります。恋のライバルとはいえ、人として懸命にケイレブを助けるおっさん。一度は引き上げるものの、足場が悪くケイレブが再び落ちそうになると今度はシンキングターイム!
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一方、アンは自宅でまったり昨夜のことを反省中…? しかし無意味に机の上のコップを落とすシーンがあります。
これが意味するのはおそらく、「ケイレブの追放」。
聖書では、蛇の誘惑に乗ったアダムとイブはエデンの園から追い出されますが、一線を超えて冷静になったアンは、ジョンが蛇を抹殺することを望んだという描写ではないでしょうか。「追放になるのは私ではなく、もちろんジョンでもなく、誘惑してきたケイレブなんだ」と。
アンの期待をテレパシーで受け取ったジョンは、帰宅後、ケイレブとの経緯を説明します。
ジョン「ケイレブはもういないよ」
「○○(←元々のケイレブの目的地)へ旅立った」
アン「」
アンはジョンの話をどんな気持ちで聞いていたのでしょうか? 水車の設置でようやく電力が戻った安定の生活を、ケイレブが捨てる訳はないのです。ジョンが殺ったに決まっている。
良かった。これで私の罪はバレない。しかしそれでいいのか? 私はそれを望んでいたのか? こんなモテない男の代表みたいなおっさんで本当に良かったのか?
罪を犯した者同士、世紀末の共同生活が再び始まります。
さいごに
同じくネタバレ感想を書いている方がこれ以上なく的を射たことをおっしゃっていたので、引用して終わりたいと思います。
三角関係においてオッサンの数少ない優位性は先にあの場所に着いた。
引用: 映画「死の谷間」はベタな三角関係ドラマ!感想とネタバレ
ほんこれ。どうもありがとうございました。