漫画ライター

スライダーを語り続ける男《男の中の男シリーズ》

   

とあるオシャレ居酒屋にて価格に見合わない残念ディナーを酒で流しこんでいたある夜。
カップルシートにて愛を語らう男女2名の声が聞こえてきました。
通常なら気にもとめないありふれたシチュエーションですが、饒舌な男の声だけがやけに耳に入ってきます。

食事の手を止めて耳をそばだててみると……

 

男「スライダーはね…」

 

…………スライダー?

 

 

「スライダーはね、人差し指と中指をボールの中心より右側にそらして」
「親指も少し右側にそらすんだよ。このとき、人差し指は縫い目にかけて…」

 

 

なんという話題を展開しているのでしょう。

案の定というべきか、女性は

 

「はぁ」
「へ〜え」
「……うんうん」

 

清々しさを覚えるほど感情のない相槌。

しかし男はかまわず、

「そのときの調子にもよるけれど」
「僕なんかは打者の雰囲気を感じ取って…」

 

とまらない!

 

このたくましさ……会話のイニシアチブを取るどころのレベルではありません。
久方ぶりに、男の中の男を目撃しました。

可能であれば僕も真似たいところですが、スライダーの投げ方とかピンポイントで押しきれる話なんて持ってないし、半ば屈服する思いで女性が共感してくれそうな話題をスカスカの引き出しから探っている状態でございます。

二人のよく聞いてみると、お互いときおり敬語が出ていたので、付き合いたてか、恋人未満な間柄かもしれません。
いずれにしても男性の印象が下がった感は否めないのですが、うんちくを聞くのが好きな女性もいるとは思うので、僕はただただ、勇者の成功を祈るばかりです。

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