何年経っても色褪せない沖縄映画『ナビィの恋』のネタバレ感想

公開日:2020/10/01 更新日:2021/10/31

ナビィの恋は、沖縄・粟国島を舞台にした1999年公開の映画。執筆時現在が2020年なので、もう20年以上も経つのか。

要所で沖縄民謡が使われるミュージカル的作品で、アイルランド音楽とコラボするシーンもある。僕はこのシーンを観てこの映画の虜になってしまった。

1999/日本
上映時間:92分
監督・脚本:中江裕司
出演:西田尚美、平良とみ、登川誠仁、村上淳、ほか

福乃助は東金城一族が求める「福」の存在

物語の冒頭から登場するバックパッカーの福乃助(村上淳)。名前が分かるのは少し先のシーンになるが、奈々子の実家に「福禄寿」という掛け軸が映るため、彼が東金城家に福をもたらす人物であることが予測できる。

福禄寿は、財産・長寿・子宝(幸福)の三種の願いを具現化する神の名で、東金城家は(というより粟国島の人々は)一族の繁栄、つまり子宝をとても大切に考えている。福乃助は奈々子との間に6〜7人の子を授かるわけだから、まさに福禄寿そのものである。仕事を覚えるのが早く、サンラーのように漁が得意な描写もあり、少なくともお金に困ることはなさそうだ(と、思いたい)。

少しかわいそうなのはケンジだが、奈々子を愛していると口にするものの本気度は感じず、ナビィがサンラーと去った後も奈々子の傷心に気を配る様子はなかった。したがって「フラレて当然」なのだが、ラストの宴会シーンでは楽しそうに歌っており、わりと早めに復活するところは自分を見ているようでシンパシーを感じる。

まあ、オジーと同じく、愛する人が自分を「好きではいてくれても愛してはいない」ことを理解していたのだろう。ちょっと待って悲しくなってきた。

マッサージチェアはオジーのささやかな抵抗

オジーは、サンラーには敵わないことを知っている。しかし恋敵として憎んでいる素振りはなく、今でも「カッコいいお兄ちゃん」のように思っていることが分かる。

とはいえ、諦めた時点で試合終了なので、ちょっとした抵抗をしたように見えるのが、マッサージチェアをプレゼントするくだりだ。「ずっと休んでていいから」とナビィを座らせるが、ナビィは「もう治った」とすぐに立ってしまう。オジー……(T_T)。

オジーが素敵なのは、妻の心が自分から離れたと分かった後でも、変わらずナビィの味方だというところ。サンラーの処遇を下す一族の会議では、変顔で場の雰囲気を和ませるなどしていた(効果のほどは不明)。「どうか島を追い出すのだけはご勘弁を……」とせがむナビィと共に頭も下げた。

そんなオジーへ、ナビィからの最後のお礼は豪華弁当だった。デリカシー度マイナス1万点の福乃助が「奈々子さんのより美味しそう」などとほざいて一口もらおうとするが、断固としてあげないオジー。当たり前だ。60年間の「好き」が詰まった弁当だぞこの野郎。というかお前には奈々子の弁当を食う資格もない。

今だとそこそこ怒られそうな下ネタの数々

この映画は60年間連れ添った妻が駆け落ちする話なので、残されたほうのダメージが半端ないはずなのだが、沖縄ならではのカラッとした空気感で「ま、いっか」と思わされてしまう。

ダメージといえば、奈々子は数々の下ネタ・セクハラ発言に遭うが、「もぅー!(アハッ)」みたいな返しで気にしている素振りがない。平成8年はそんな時代だっただろうか? それとも、島の人は性にオープンな気質なのだろうか。

驚くことに、主要な登場人物の中で、下ネタ・セクハラ発言をしていない男はサンラーだけである。

  • オジー:奈々子の胸が小さいと言う / 奈々子の尻を見ながら卑猥な歌(国頭ジントヨーの替え歌)を歌う / 他多数
  • ケンジ:奈々子の前で立ち小便をする / その後「俺のチ◯コで幸せにしてやる」と言う
  • 福乃助:オジーと共に菜々子に向けた卑猥な歌「モンデヨー」を歌う / 奈々子との婚礼の式でキワキワな替え歌を歌う(余談だが、後の『山田孝之のカンヌ映画祭』にて「歌唱力がひどい」という理由で降板させられたのを思い出しクスッときた)

どういう意味があったんだろう?と思うのは、庭先のバンシルーを食べたいと思った福乃助が、奈々子に「ちょっと足開いてもらえます?」と頼むシーン。単に肩車するためなのだが、何らかのメタファーなのだろうか? 奈々子はあそこで福乃助を意識したのだろうか?

下ネタ・セクハラに対する現在の感覚が正常なのか過敏なのか分からないが、女性に向かって「足開いてもらえます?」はド直球。そこにシビれるあこがれるゥ。

差し色の赤が美しい

沖縄での撮影は海・空の青と自然の緑で青みがちになってしまうため、ところどころで赤色が差し込まれている。物語のキーアイテムとなるブーゲンビリアを筆頭に、奈々子のドレス、ナビィの髪留め、サンダルの鼻緒など。物語も映像もなにもかもが美しい。男連中の下ネタを除けば。

さいごに:粟国島観光に行きたい

公開から20年以上が経ち、平良とみさんや登川誠仁さんはすでに故人だ。ロケ地となったナビィの家も今では何もないらしいが、それでもいいから粟国島に行きたい。

同じく粟国島を舞台にした映画『洗骨』も観てから、粟国島旅行への具体的な旅程を立てよう。2020年中に行くぞ絶対。

追記)ほんとに行ってきた。

書き忘れ・・・

本家へ挨拶に行った帰り道、酔っぱらった奈々子が『十九の春』の歌詞を「はっちゃん」に変えて歌うが、はっちゃんとは誰なのか考えてみた。

結果「分からない」というトレンドブログみたいなオチになるが、別れた恋人の名ではないだろうか。

奈々子が仕事を辞めて里帰りしてきたのも失恋が絡んでいると思われる。十九の春は女性が離縁を突きつけられる歌のため、フラれたのはたぶん奈々子。理由は「好きだけど愛していない」から。さすがにこじつけかな。

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コウカ(kouka)
ライター事務所「k-note」代表。カメライター、フォトライター、漫画原作者。写真と落書き漫画を交えて文章を書くのが好き。詳細プロフィールはこちら、仕事の実績確認・ご依頼はこちらからどうぞ。

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